『狼の死刑宣告』感想 - ジェームズ・ワン監督の”野心”作
『アクアマン』のCMが良かったり、『ワイルドスピード SKY MISSION』がシリーズ見た中では一番面白く感じたりしたので、同じ監督で、AmazonプライムVideoで配信していた『狼の死刑宣告』を見てみました。
アクション映画回ではもう100万回は撮られたであろうオジサン+家族愛+復讐のベタ・アクション映画でした。
あらすじ
家族と幸せな生活を送るニック(ケヴィン・ベーコン)はある日ギャングの襲撃に遭い、目の前で長男(スチュアート・ラファティ)を殺されてしまう。犯人は捕まるもあまりに身勝手な殺害理由、そして納得のいく刑罰を下せないことを知った彼は、法廷で裁くことを断念する。怒りを抑えられない彼は自らの手で復讐(ふくしゅう)を果たすが、その相手はギャングのボスのたった一人の弟だった……。
この映画のケヴィン・ベーコン演じる主人公-ニック-はいたって普通のサラリーマンで、デスクワークについています。その主人公が100分程度の尺の中で1人殺し、2人殺し、家族を襲われ、10人程度の敵を前に大暴れするわけです。リーアムニーソンやシュワルツェネッガー、スティーブンセガールのような元軍人という設定が無い。
そんなわけで映画の中でニックはあんまりスマートに戦いません。逃げる時もバタバタしてるし、家の中に入ってきた敵を退ける時もたまたま閉じたドアが銃口をそらし別の敵に当たります。敵の1人の家に突入するときにはカーペットでずるっと滑ります。覚悟を決めて髪をそりますが後頭部に剃り残しが。銃の準備中もなんか弾をぽろぽろ落とす有様。
これらの演出を見ているとクリント・イーストウッドの『許されざる者』という映画を思い出しました。老境に入った西部時代のガンマン/賞金稼ぎを題材にした映画なのですが、この映画では主人公はスマートに戦うことができない、歳だから。
ゲームの『The Last of Us』を遊んだ時も似たような感想を持った思い出があるなぁ
そして、この映画を最後まで見るモチベーションを保たせているのは、ニックの持つ復讐への凄み。
ギャングの集団に追われ、立体駐車場まで追い込まれるニック。手分けして自分を探しに来る敵のうち1人がすぐ近くまで迫っています。その敵が他の仲間から離れていることを確認したニックはさっきまでの怯えた表情から一転、覚悟を決めた男の顔に。
要所要所で、ただのサラリーマンだったニックは覚悟を繰り返し、物語の終焉まで男泣き無しには語れない魅力を醸し出してくれます。
こういった感じで、この映画単体の感想としては「見どころはあるし、決してつまらなくはないけれど、よくあるアクション映画の一つ」というようなものでした。
家族愛オッサンアクション映画には『96時間』のような名作もありますしね。
しかし、僕はこの映画を”本篇”それ以上に楽しむことができました。
どういうことかというと↓をご覧ください
年 邦題
原題監督 製作 脚本 編集 備考 2000 Stygian 2003 Saw (短編映画) 2004 ソウ
Sawジュラルメール・ファンタスティック映画祭 審査員特別賞 受賞 2005 ソウ2
Saw II製作総指揮 2006 ソウ3
Saw III製作総指揮 2007 デッド・サイレンス
Dead Silence狼の死刑宣告
Death Sentenceソウ4
Saw IV製作総指揮 2008 ソウ5
Saw V製作総指揮 2009 ソウ6
Saw VI製作総指揮 2010 ソウ ザ・ファイナル 3D
Saw 3D製作総指揮
ゴールデンラズベリー賞 ワースト3D作品賞 ノミネートインシディアス
Insidious2013 死霊館
The Conjuring放送映画批評家協会賞 SF/ホラー映画賞 ノミネート インシディアス 第2章
Insidious: Chapter 22014 アナベル 死霊館の人形
Annabelle2015 ワイルド・スピード SKY MISSION
Furious 7ダークハウス
Demonic日本劇場未公開 インシディアス 序章
Insidious: Chapter 32016 死霊館 エンフィールド事件
The Conjuring 2ライト/オフ
Lights Out2017 アナベル 死霊人形の誕生
Annabelle: Creationジグソウ:ソウ・レガシー
Jigsaw2018 アクアマン
Aquaman12月21日 米国公開予定 インシディアス 最後の鍵
Insidious: The Last Key
これはジェームズ・ワン監督のWikipediaより引用したフィルモグラフィです。
これを見ると、この『狼の死刑宣告』は異色の作品であると言えます。
ホラーでもなければブロックバスター映画でもない、割と基本に忠実なスリラー映画。
なぜこのような映画を撮ったのでしょうか。
実はジェームズ・ワン監督はニュース記事などでたびたび「もうホラーは監督から引退する」という旨の発言を繰り返しています。
おそらく彼は清水崇監督が『リング』から『魔女の宅急便』に行ったように、自身の才能を新しいジャンルにぶつけてみようと企んでいるのでしょう。
今作でもアクションに注力しつつも自身の武器であるホラー演出を巧みに使って映画を構成しており、品よくしあげておりますが、何処かこの映画だけではない、もっと先を見据えて作っているような印象を受けました。ある種、練習作品のような側面が見え隠れしており、そこに監督の野心を感じ取ることができます。
この作品から匂ってくるジェームズ・ワン監督の熱い”野心”が、今後の作品にどうつながっていくのか、楽しみです。