『失踪日記』 著 : 吾妻ひでお - 壮絶で笑うしかないギャグ作家と酒と鬱

アマゾンで購入した『失踪日記』が届いたので

 

失踪日記

失踪日記

 

内容紹介

「全部実話です(笑)」──吾妻

突然の失踪から自殺未遂・路上生活・肉体労働、アルコール中毒・強制入院まで。
著者自身が体験した波乱万丈の日々を、著者自身が綴った、
今だから笑える赤裸々なノンフィクション!

 

 

本著は『不条理日記』などでおなじみ萌えロリの元祖ともいわれる漫画家、吾妻ひでおが自身の鬱とアル中、失踪、精神病院時代の出来事をクールな視点を持ちつつもホントに赤裸々に描いたエッセイ漫画である

 

本著は

  夜を歩く(著者、一度目の失踪)

  街を歩く(二度目の失踪)

  アル中病棟(入院時代)

  巻末(漫画家 とり・みきと著者との対談)

の四編からなされており、軽快な絵のタッチでありながらそれぞれ非常に濃い内容となっている(巻末の対談は文字起こし)

 

僕が面白かったのは夜を歩く、で大根は皮の剥き方で辛みに緩急をつけることができるという話

一見、失踪中の良かったことのように描かれているので読んでる最中は一瞬明るい気持ちになるのだが読み終わってからふと冷静に考えると全然よくない

というか泣ける話ですらある

著者は子供のころの経験から、食事に対して卑しい部分があると自ら言っており拾ってきたキャベツと茎ワカメをビニール袋に入れて尻に敷き一晩寝かせ漬物にしたり、生卵とてんぷら油を使ってマヨネーズを作ったり、挙句の果てにコンビニ弁当をあさりまくり家族に引き取られる頃には失踪前より太っているというので驚きである

最後に警官に引き取られた時に、自分のファンである警官の一人が色紙を持ってきてサインをねだり「『夢』と書いてもらっていいですか?」というエピソードは出来すぎていて笑った

 

街を歩く、では著者は身分が証明できなくても入れたガス会社に入社し給料をもらって働いている

漫画が嫌になり失踪したのに会社で広報の漫画を描いていたというのが、作家としての業を感じさせていてかつ、笑えるエピソードであった

ここにでてくる登場人物は、人にものを教えるのが下手なくせに目は血走っていたり、著者に家具を買わせることでマージンを取っているなど、社会生活は送ることができるがどうしようもない人物が多く、個人的にはアル中病棟に出てくるどこか人間的なかわいらしさを備えた人物たちよりも人間の怖さを感じた

 

アル中病棟でまず驚くのは出てくるナースの可愛いこと可愛いこと、笑

このことは巻末の対談でも触れられており、なぜこんなにも可愛く描いているかはぜひ本書で

ここでも多くのダメ人間が出てくるのだが長い間同じ空間で共通した意識をもって生活していたせいか、著者のダメ人間たちに対する変わった愛情のようなものが絵にも出てきており冷静に考えると本当に悲惨でひどい人間ばかりだが不思議と読み終わるころには愛着がわいてくるのである

 

個人的にはT木女王とK竹さんのコンビがなぜか心に残っている

熟年の青春ドラマのようだと著者は称していたがこの二人からは本当にバックボーンのドラマやペーソス、そして若干の微笑ましさまで感じさせてくれるのだ

 

続編の『失踪日記2 アル中病棟』ではこの二人のエピソードがさらにあるそうなのでぜひ読んでみたい

 

失踪日記2 アル中病棟

失踪日記2 アル中病棟

 

 

 

僕を含めた、日本人好みの哀しく、淋しい、人間達の物語であった