「何に勝った」 ー 守っただけである 映画『インサイダー』感想
「ここで壊れたものは戻らない」
ローウェル・バーグマン
前々から見たかったが近所のレンタルショップには置いてなかったのでようやく鑑賞
ストーリーとしてはタバコ産業会社に勤めていた普通の男がその会社の煙草の健康被害の懸念を訴えたところ会社を不当解雇され、家族を盾に脅されつつも世間にそのことを公表するかの葛藤と、自分のポリシーを守りたいジャーナリストとの思惑が交差する話である。
『ヒート』『コラテラル』等を世に送り出したマイケル・マン監督らしい重厚でソリッドな演出をくまなく堪能することができた。
画面作りとしては、人物の顔を手前に舐め物として置いたり人物の顔のアップを画面の中央より少しだけ左右に振ってあるというものが多かった。
bgmも基本的には抑えてある印象で演技と脚本を中心に見せているという印象で個人的には大満足だった。
映画の筋はバーグマンとワイガントの友情と不信感を混ぜ合わせた現代版走れメロスだった
今までに見た映画で言えばミッドナイトランに似ていると思った
そうして不信感を乗り越え仕事上の付き合いとはいえ高いの信念に基づいた友情を結んだ二人の男は最終的には誰に勝ったかわからない、守るだけ守ってそして少しだけを失ってしまうというある意味敗北エンドなのだが男の生き様と価値観を教えてくれる素晴らしい映画だった
それはラストに出てくるセリフに表れている何に勝ったのか、 ここで壊れたものはもう戻せない
バーグマンには分かっているのだ、自分が何も勝っていないこと 、中盤のシーンにもある料理ジャーナリズムの虚しさを覚えてしまい自分が仕事に追われることに喜びを覚えていくだけなのではないかと
バーグマンには分かっているのだ自分が今まで守ってきたものは今回かろうじて守れただけでもう次がなくなってしまったということ、それは情報提供者に与えることのできた信頼と絶対的な保護
バーグマンだけではない ワイガントもそして B & W をはじめとする7社のタバコ会社もあらゆる組織や個人がこの映画では失って損失してそして壊れてしまっている
それでも戦ったのだ自分の信念や良識のために
いやそんな陳腐な言葉で表せない男の価値観のために
誰よりも気高い負け犬たちへ